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最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)707号 判決 1964年3月10日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由(一)1ないし3について。

所論中、原判決は憲法二二条に違背する旨の主張があるけれども、右はその実質は単なる法令違背(民法一条二項、同六〇一条、借家法並びに事実誤認に対する経験則違背等)を主張するに帰するもので、その主張の前提を欠き、論旨は採るを得ない。そして原判決が本件家屋の使用関係についてなした各認定は、その挙示の証拠関係からこれを肯認し得る。なお右認定せる事実関係によれば、原判決が本件家屋の使用関係は借家法の適用を受ける一般の賃貸借関係と異なり、判示の如き社宅使用に関する特殊の契約関係であつて、上告人は昭和三四年三月三日その退職とともに右家屋を明渡す義務がある旨判示したことは正当として肯認し得られ、また当裁判所判例(昭和二八年(オ)第七九七号、同三〇年五月一三日第二小法廷判決、民集九巻六号七一一頁参照)の趣旨に合致するものというべく、所論は、原審の認定判示にそわない事実を主張し、かつ独自の見解に立つて原判決を非難し、或は原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、論旨は採るを得ない。

同(二)1について。

原判決は所論の如く本件家屋の使用料は、役職別に定められる前は一ケ月一、五〇〇円であつた旨認定しているけれども、右は一般の建物賃貸借における賃料より低廉の使用料であつたこともまた原判決の認定するところであり、原判決の本件家屋の社宅としての使用関係についての判示につき、所論の如き理由齟齬の違法は存せず、論旨は採るを得ない。

同(二)2について。

所論は、結局原審の証拠の取捨判断の違法を主張するに帰するもので、原審が森証人の証言内容をその挙示する一審証人田村愛吉の第一回証言をもつて排斥したことはこれを肯認し得る、論旨は採るを得ない。

同(二)3について。

原判決の所論判示は正当としてこれを肯認し得、そして原判決が本件家屋の使用関係を判示の如き社宅使用関係と判示したことも、その認定せる事実関係からこれを肯認し得るところである。原判決に所論の如き理由齟齬の違法は存せず、論旨は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)

《当事者》

上告人 佐藤久弥

被上告人 神島化学工業株式会社

右代表者代表取締役 宮原 清

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